お墓参りに行くと、以前は「〇〇家之墓」などと彫ってある墓石が多かったのですが、最近は、変わった形の墓石に、「心」や「ありがとう」など、故人の選んだと思われるいろんな言葉が彫刻してある墓石を多く見かけるようになりましたよね。墓石や彫刻する言葉にも流行があるのでしょうか?
墓石に彫刻する言葉の歴史
歴史の教科書でよく目にするのは権力者の大きなお墓の「古墳」と呼ばれるものですが、実は日本では縄文時代から死者を埋葬してお墓を作っていました。現在のお墓の形は、中国の壇宗によって伝えられた位牌からきているといわれています(戒名も同時に伝わった)。
江戸時代になると、幕府はキリスト教を弾圧し排除するため「檀家制度」が制定されました。それによって、すべての人はお寺の檀家として所属し、先祖の供養やお墓などが家単位で広まっていきました。そのため、その頃は「〇〇家之墓」「〇〇家代々之墓」などの言葉を墓石に彫るようになりました。
戦後に民法が改正されたことにより「檀家制度」がなくなりました。すると、日本では核家族化や個人主義がどんどん進み、お墓に対する意識や考え方も変化していきました。今では、形や宗教に取らわれない自由な発想で、お墓に好きな言葉やメッセージを彫った形の墓石も増え、縦型のいかにもな墓石ではなく、横型などのモニュメントとしての墓石も増えました。
【墓石にはこういった言葉を彫らなければいけない】
【書体はこうでなければいけない】
といった決まりはないのです。
最近流行の言葉や書体
お墓に彫刻する言葉や書体に決まりはありませんが、「これの方が見た目が良い」という、お墓業界の常識みたいなものはあります。
和型の墓石の場合は、「楷書体」「行書体」「隷書体」が多いようですが、故人が書いた書や書家に依頼した書などでも墓石に彫ることができます。また、書体も「旧字体(※1)」を使った方が、墓石に『風格』や『それらしさ』が出ます。
※1:旧字体とは、1946年に内閣が当用漢字表を告示しましたが、それ以前に使用されていた字体のことを「旧字体」といいます。
≪例≫
- 一文字: 心 夢 無 絆 道 悠 偲 花 静 風 …
- 一文字以上: 旅へ 自然 やすらかに ありがとう …
- 句:「やすらかに ここに眠る」「会いに来てくれて ありがとう」…
- 俳句など: 夢の世や 南無阿弥陀仏 いざさらば 〇〇 …
墓石以外に彫刻する場所
- ≪香炉・花立・水鉢≫
- 線香を供えたり花を立てる部分です。
この部分には家紋が彫られていることが多いようです。 - ≪墓誌≫
- その墓に入っている故人の、死亡した年月日や戒名・俗名などを、右側から順番に彫刻していきます。
霊標・戒名版・法名碑などとも呼ばれますが、単独のお墓の場合は、故人の詩や曲などの作品を彫刻したりするようです。
墓石に彫刻する言葉の注意点
1.周囲に相談して了承を得る
墓石に好きな言葉を彫刻することは、最近の流行りでもあります。しかし、自分が好きだといっても、まわりの家族みんなが好きとは限りません。
特に、そのお墓に兄弟・妻や子・その子孫が一緒に入る予定の墓や、子孫が継承していくことがわかっている墓は、周囲の人が「どう感じて」「納得」してくれるかも大事です。あまりに奇抜な言葉だと、故人を知っている方は納得できても、その後に生まれた子孫は『こんなお墓に入りたくない…』と感じる場合もあるのです。
2.知的財産権に注意する
いくら生前、故人が気に入ったからといって、なんでも勝手に墓石に彫刻して良いわけではありません。たとえば、有名書道家の作品をホームページから勝手にダウンロードした文字や、小説の中の言葉をそのまま抜き取ったり、大好きな歌の歌詞をそのまま使ってしまったりなど…
たしかに、墓石は私的に所有するものですから営利目的ではありません。しかし、墓地や霊苑などに設置するため、多くの人の目に触れますから、公のものだという考えもできます。そのため、著作権などの知的財産権に触れる可能性が大いにあるのです。
訴えられれば、”知らなかった”では済まされない場合があるため、むやみに使わないのが安心です。もしもどうしても使いたいならば、権利を持っている個人や団体に問い合わせて、きちんと「承諾を得て」その「証拠を残しておくこと」が大事です。そうすれば、もし訴えられた場合でも、承諾を得ている証拠があれば問題にはなりづらいでしょう。
3.墓地によってはできない場合も
変わった言葉を墓石に彫りたい場合は、そのお墓を設置する予定の墓地やお寺に問い合わせて、大丈夫かどうかを確認しておくと後々トラブルが起きる可能性も少なくなります。